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スペシャル・イシュー
ロイ・フラー再現プロジェクト
第1回

日本女子体育大学の学生・OGのみなさんと1年がかりでロイ・フラーを再現するプロジェクトを今年の4月から始めました。

ロイ・フラーは100年以上前にヨーロッパで一世を風靡したダンサーです。彼女のダンスの特徴は、間違いなく「巨大な布を踊らせる」ところにあります。サーペンタイン・ダンス(蛇の踊り)とも称された独特のアイディアは、当時最先端の科学発明だったろう照明技術を用いた、テクノロジーのダンスという側面も有していました。昨年末のBONUSイベントに出演してくれた真鍋大度さんのPerfumeとの一連のコラボレーションは、ロイ・フラーを歴史的な出発点にしているといっても過言ではないでしょう。

私たちはロイ・フラーから多くの可能性を学ぶことができるのではないでしょうか。

ロイ・フラーは様々な芸術家の霊感源になりました。当時の人々が受けたインパクトは、ひとつの歴史を生み出しましたが、それらの歴史的成果が示すのとは別の可能性がいまだ展開されぬままに、今日に至るまで残されたままでいる、などということはないでしょうか? そうした過去の果たされなかった可能性の内に、ダンスの未来の姿が隠れているのではないでしょうか?

ロイ・フラーを再現してみること、そしてその試みを通じて、未知のダンスを発明すること。

BONUSが日本女子大学のみなさんと進めてみたいのは、なかばアカデミックでなかばクリエイティヴな実験です。

日本女子体育大学の高野美和子先生(優れたコンテンポラリー・ダンスの振付家・ダンサーでもあります)に協力していただき、2ヵ月に1回程度のペースで、ミーティングを行うことになりました。また、柊アリスさんを特別講師としてお招きすることにしました。柊さんは私がこのアイディアを思いつくよりも早く、単独でロイ・フラーの再現に取り組んでいるダンサーです。コンテンポラリー・ダンスを背景に持ち、タンヌーラというエジプトのダンスに魅了され、専門家に教わった後、スピンドルダンスと銘打ちオリジナルに展開している方です。タンヌーラは自分の体をくるくると回す「自転」を行いながらスカートのような大きな衣装を操るダンスなのですが、腕を回して布を回転させるロイ・フラーにも回転のダンスという共通性から興味をもち、数年前にシルクの衣装を創作したのだそうです。


第1回(4/20)は大風と雨が吹くなか、18時すぎに日本女子体育大学の体育館に集まって、まずは柊アリスさんが自ら創作したシルクの衣装を纏い、ロイ・フラー風のダンスを実演してくださいました。


ロイ・フラー再現プロジェクト第1回 Part 1

柊アリスさんのデモンストレーションの後、学生・OGのみなさんのなかで何人かが衣装を借りて、シルクを踊らせてみました。またその後、柊アリスさんや学生・OGのみなさんの踊りをみんなで振り返ってみました。


ロイ・フラー再現プロジェクト第1回 Part 2

第2回は6/15を予定しています。

第3回以降は、2ヵ月に1回ペースで照明、映像、衣装など、ロイ・フラーのダンスに関連したイシューをひとつひとつ取り上げながら、実験・製作を進める予定です。


当日配布した木村製作のレジュメ

みなさんロイ・フラーをご存知ですか?

ロイ・フラーは主にヨーロッパで活躍したアメリカ出身のダンサーです。「サーペンタイン・ダンス」と呼ばれる独特のダンスを踊ったことで知られています。特徴的なのは、衣装です。極端にヴォリュームのある衣装を大きく振り回すことで、ダンサーのもつ身体の形象を著しく変形させながら踊りました。

私はみなさんとこのロイ・フラーを再現してみたいと考えております。この再現プロジェクトを通して、100年ほど前のダンス遺産を振り返ってみたいのですが、ただ再現することだけが目的ではありません。ロイ・フラーが試みたことは、とても現代的です。いや、こういうべきかもしれません。ロイ・フラーの遺産を応用するような仕方で、現代のある種のダンスが生まれ、発展している、という側面があるのです(その最も有名な例が真鍋大度がPerfumeとともに行っている、衣装にプロジェクションマッピングをあてるプロジェクトです)。私たちは、過去を未来を生み出す刺激源として捉えることで、新鮮な表現へと向かうことができるはずです。授業の枠とは異なる時間ですが、ちょっとしたサークル活動みたいな気持ちで楽しんでもらえたら幸いです。

「サーペンタイン・ダンス」の発端 『クワックM.D.』(1891)

ロイ・フラー(1862-1928)はアメリカ合衆国のシカゴ州出身で、パリで逝去したダンサー、パフォーマーです。彼女はあの独特のダンスで有名ですが、それを発明する発端になった出来事があります。本人曰く、それはある芝居への出演でした。フラーは小さな頃から芸能の世界で生きてきたひとでした。とはいえ、小柄で外見がとても美しいというわけではない彼女は、ボードヴィルの世界で満足する活躍ができずにいました。そのなかで、29歳のときに未亡人の役を得たフラーは、舞台上で医師役の男(主人公)に催眠術をかけられます。催眠術によって舞台上をさまようさまには、今後のパフォーマンスの原型を見ることが出来ます。フラーの伝記を読んでみましょう。

「私たちが作業を始めると、劇作家が芝居に一つのシーンを加えるアイディアを思いついた。それは、クワック医師が若い未亡人を催眠術にかけるというシーンだった。その頃、催眠術はニューヨークでとても人気になっていた。そのシーンに大きな効果を与えるのに、彼は非常に甘美な音楽とぼんやりした照明を求めた。私たちは舞台の電気技師に、抑制された雰囲気を演出するため、フットライトとオーケストラのリーダーのあたりに緑色のランプを灯すようにお願いした。次の大きな問題が私の身に着ける衣裳だった。私は新しい衣裳を購入する余裕がなかった。……小さな宝石入れから私は、蜘蛛の巣に似た、軽いシルク素材の布を取り出した。それはスカートだった。」
(Fuller, Fifteen Years of a Dancer's Life, pp. 25-26)

たまたま持っていたシルク素材のスカート。この偶然が歴史に残る大きな一歩となりました。フレンチカンカンのように、スカートを踊らせるというアイディアはすでにありました。しかしこのとき、後のサイズからしてみれば恐らく控えめだったろうスカートを、これまでの誰とも違う使い方をしたのです。

「彼が腕を上げた。私は自分の腕を上げた。暗示(suggestion)の影響のもと、彼が行う光景にうっとりとして、私は彼のあらゆる動作に追随した。私の衣服はとても長くて、絶えずそれを踏みつけてしまったほどで、また機械的に私は衣服を両手でつかみあげて、自分の腕を宙へ浮かせた、そうしている間中、翼のはえた精霊のごとく、私は舞台の周りをふらふらと飛び回った。」
(Fuller, ibid., pp. 31-32)

催眠という設定ゆえのふらふらとした歩行、そこに長過ぎるスカートがあって、それを摘んで動かしてみたことが、奇跡を生んだわけです。

「観客から突拍子のない叫び声が聞こえた。「蝶蝶だ、蝶蝶だ!」 私は歩みを進めて、舞台の端から端へと走った。すると、二度目の叫び声が聞こえた。「ランの花だ!」驚いたことに、絶えまない拍手喝采が溢れはじめた。医者はずっと、足早な歩みで、舞台の周りを静かに動き回り、私は彼をより一層足早になって、付き従った。遂に、恍惚とした状態で立ちすくむと、私は自分の身を彼の足元に倒して、完全に光の塊のなかに包まれた。観客たちはアンコールを求め、そうしてアンコールが繰り返された。その求めがとても声高で頻繁だったので、私たちは20回かそれ以上、戻ってこなければならなかった。私たちは六週間上演を続けた。」
ibid.

当時の反響

その後、フラーはあっという間に人気者になっていきます。パリ万国博覧会でロイ・フラー劇場をひらいたのは、その証左です。彼女のダンスは芸術家たちに大きなインパクトを与えました。当時の反響をいくつか紹介します。

ジャン・コクトーの見たフラー
「私は万博で覚えているのはただひとつ鮮やかなイメージだ、ロイ・フラー……太っていて醜いアメリカ人女性がガラス張りの台座の上に立ってしなやかなシルクの大きな波立ちを操っていた……翻し、掲げ、消し、回し、浮かばせなどしながら光と布の無数のらんの花々を創造した。私たちは皆でこのダンサーを歓迎しようではありませんか、彼女は時代のファントムを創造したのです。」
(Rhonda K. Garelick, Electric Salome, Princeton University Press, 2007, p. 14)
イサドラ・ダンカンの見たフラー
「私たちの目の前で、彼女は色とりどりの輝くらんの花になり、波間に揺れて流れてゆくいそぎんちゃくとなり、最後はらせん形のゆりの花へと変身していった。まさに、マーリン(アーサー王伝説のなかの魔法使い)の魔術であり、光と色と揺れ動く動作の魔術師だった。なんというすばらしい天才なのだろう! ロイ・フラーをいくらまねしても、彼女の才能のほんの一片でも表現することはできないだろう。私は我を忘れていたが、これは二度と繰り返すことができない自然な動きの噴出であることに気がついた。彼女は自分自身を観客の目の前で何千もの色彩豊かな幻影に変えたのだった。」
(イサドラ・ダンカン『魂の燃ゆるままに』冨山房インターナショナル、2004年、120-121頁)

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